Inerk's story 43 "Under cover cop Inerk"

【前回までのあらすじ】
ミシガンでの休暇中に強盗達と銃撃戦をしたイナークは、SWATの隊長から査問委員会まで市警交通課でパトロール勤務する事を命じられた。
平穏なパトロールと思いきや、イナークは都市凶悪犯罪課の応援で武器密売屋のアジト摘発に駆けつける。
都市凶悪犯罪課の捜査官達が容疑者の銃撃で負傷した為、イナークはたった一人で密売屋達のアジトに突入し容疑者達を一掃。
度重なる管轄外での銃撃戦に激怒したSWATの隊長は、イナークに自宅謹慎を命ずる。
自宅謹慎中のイナークを、都市凶悪犯罪課のグリン警部補が訪れる。




俺の名はイナーク。市警のSWATで一応チームリーダーを務めている。

ミシガンで強盗犯と銃撃戦を繰り広げる散々な休暇を過ごした後、俺は査問委員会が開かれる日まで市警交通課でパトロール勤務をする事になった。

しかし、又しても悪い時に悪い場所に俺は足を踏み入れた。
都市凶悪犯罪課からの要請で武器密輸業者へのガサ入れに駆けつけた俺は、意図せずして一人で業者のアジトを一掃する羽目になった。

署へ戻った俺を出迎えたのは怒りに顔を紅潮させたSWAT隊長と交通課のスティルマン警部。
俺は今回は言い訳はしなかった。

実際、不可抗力だった事は誰の目にも明らかだったからだ。
加えて面子を潰された当事者の、都市凶悪犯罪課のグリン警部補が今回の件で俺に好意的な報告をしてくれた事も幸いだった。

しかしそれ故に隊長にしてみればむしろやり場の無い怒りに苛立ちが増すばかり。
結局隊長は査問委員会の日まで俺を自宅謹慎にして、目の前から消す事で手を打った。

翌日、自宅謹慎初日の朝に俺のマンションを意外な人物が訪れた。

『グリン警部補。もう出歩いて宜しいんですか?』

「貫通されたとはいえ防弾ベストのお陰で軽症で済んだからね。イナーク巡査長。実は君に合わせたい人がいる。外で待って貰っているんだが少し時間を貰えるかな?」

『構いませんよ。そちらの方もどうぞ中へ』

俺は休暇に出かける時のままに片付いたリビングへ、グリン警部補ともう一人の男を招き入れた。

グリン警部補の同伴者はダークグレーのスーツをピシッと着こなした精悍な顔立ちのアフリカ系アメリカンだ。

「よろしく。イナーク巡査長。私はロックポート市警の署長、トゥエインだ」
トゥエイン署長は穏やかな笑顔で俺に握手を求める。

ロックポートと言えば、州の再開発計画に基づいて建設された湾岸の埋め立て地を中心とする新興都市。市に昇格したのは比較的最近。
急成長して栄える都市にありがちな話だが、犯罪発生率も急激に上昇していると聞く。

グリン警部補が俺が質問するより早く、今朝の突然の訪問の理由を説明し始める。
「実はウチの市警とロックポート市警は、大規模な高級車盗難組織の捜査を共同で行っていたんだ」

『車泥棒ですか?』

「組織の目立つ犯行は高級車泥棒だが、他にも麻薬売買や武器の密売にも手を出している。荒削りだが徐々に勢力を増してシンジケート化しようとしている」

『すると昨日の連中は...』

「その通り。奴らさ。武器密売の窓口へケビン捜査官に潜入して貰っていたんだが、結果は君も知っている通りだ」

グリン警部補がスーツの下の痛々しい包帯を見せる。

そこでトゥエイン署長が後を継ぐように口を開いた。
「実はこのグリン警部補が奴らの高級車盗難組織にうちの署の捜査官と潜入捜査をするはずだったんだ。残念ながらこの負傷では潜入捜査は無理だ。彼の部下達もケビン捜査官を入れて3名が行動不能の状態になってしまっては、今扱っている事件で手一杯だ」

「ロックポートの都市凶悪犯罪課の連中も腕は悪くないが、残念ながらシンジケートに面が割れていて潜入捜査は難しい。そこでだ、イナーク。君に俺の代わりを頼みたい」

とグリン警部補。

『待ってください。それでなくとも今私はSWATでややこしい事になっているんです。それは都市凶悪犯罪課に転属という意味ですか?』

「今回の潜入捜査の間だけだよ。ウチの署長とSWATの隊長にもう話は通してある。それに君の警察官以前の経歴も承知の上だ。もちろんここに居るロックポート市警のトゥエイン署長も承知だ」

グリン警部補がさらっと恐ろしい事を言ってのける。これは頼み事じゃない。立派な命令だ。

「潜入捜査はあくまで極秘だ。潜入捜査の間、公にはイナーク巡査長は自宅謹慎している事になる。君は今日から数日間、ロックポート市でLA出身のストリートレーサー、アレックスになって貰う」
トゥエイン署長が俺の目の前にアレックス名義の免許証、パスポート、社会保障番号等のID類を並べ始める。
ご丁寧にそこにはもう俺の写真が貼ってある。

『私はストリートレーサーにしては歳を食いすぎていると思いますが何で又?』

「今ロックポート市では老若男女を問わずストリートレーサーが他州から続々と集まって市道で賭けレースに興じている。彼らが車を買ったりパーツをアップグレードするチューンショップがシンジケートの窓口なんだ。腕利きのストリートレーサーは盗難車の運び屋として連中に雇われている。イナーク。君の運転技術は軍籍時代から相当な物だそうだね」

グリン警部補がニヤリと笑う。嫌な笑顔だ。

「今回の潜入捜査で君が使う車は私の方で手配させて貰った。ベースはシボレーだが最新のテクノロジーを投入して強化した車だ。デトロイト市警のある警官用に造ったPoliceCarの改良版で、桁外れの走行性能だけでなく強度も装甲車並みになっている」
トゥエイン署長が車のキーを渡しながら話を続ける。

「君にはストリートレースでランカークラスの連中と勝負をして勝って貰わねばならん。この車と君の腕があれば問題ないはずだ。そうすればシンジケートの連中から間違いなく誘いが掛かる。君の経歴はグレン警部補が完璧に偽装するから心配はいらない」

武器密売の方でケビン捜査官の潜入捜査がバレた事を考えるとその辺は鵜呑みに出来ないな...

俺の不安を察したかのようにトゥエイン署長がさらに続ける。
「シンジケートの君への信頼の裏付けは、君自身がやる事になる。ストリートレースの後に、この車を使ってロックポート市警の警察車両を徹底的に叩いて貰う。もちろん市警の交通課の連中も君をストリートレーサー、アレックスと信じているから手加減は無い。舐めてかかるといかにこの車でも病院送りだぞ」

だんだん本性を現して来たじゃないか。

『待ってください。すると私に他の市とはいえ、警察官や市民を違法運転で事故死させるリスクを負えとおっしゃるんですか?』

「違法行為を行うのはあくまでアレックスだ。要は君自身が事故で死んだり、市警の交通課に逮捕されなければいい。万一逮捕されたら厄介な事になると覚悟してくれ。君がシンジケートに潜入して証拠を確保し、盗難車の解体現場を掴んだ時点でロックポート市警の都市凶悪犯罪課が一気に踏み込んで連中を一網打尽にする」

氷のような冷静、いや冷酷な表情でトゥエイン署長が俺に告げる。

『この任務をお断りするのは出来ないようになってるんですね?』

「悪いな。イナーク。そういう事だ。不正規活動は軍籍時代からお手の物だろう?バックアップはするから心配するな」

とグリン警部補。
俺は不愉快な気分になったが、それをあからさまに表情に出さないだけの分別は過去の失敗から学んでいた。

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俺は数時間後、走る凶器とも言える怪物マシンと化したシボレーの運転席で一路ロックポート市を目指していた。
羽織るCWU-36/Pジャケットはデルタ時代に、墜落して敵地に降下した所を救出してやった海軍のVF-213のドラ猫乗り(F-14)から貰った物。
海軍の飛行隊にしては控えめにワッペンが貼られていて、今回の捜査の間、ストリートレーサーを演じるには手頃なプロップ。

ロックポート市警の相棒はミアと言う都市凶悪犯罪課の潜入捜査官の女性。
ランカー達とのストリートレースと、シンジケート窓口への俺の売り込みの段取りはもう済んだらしい。

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ミアの段取りは完璧だった。
俺は誰にも不審がられる事も無く、到着早々にランカー達のストリートレースに参加する事が出来た。
スターティンググリッドでは新参の俺は後列。まあ仕方が無い。
連中のマシンも最大限チューンされたモンスター揃いだ。
ランカーの大半はシンジケートの手先になっていると聞く。
クリーンなレースを期待するのは間違いだ。少々のラフ・ファイトの覚悟は必要だろう。

さて、それではお手並み拝見と行こう。

(ここで動画 "Street Race"約2分をご覧下さい)

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今日のレースは俺の優勝だった。
正直、腕よりもモンスターシボレーのパフォーマンスによる部分が大きいと思うが勝ちは勝ちだ。

序盤は様子見で押さえ気味に走ったが、後半は一気に他の出場者を突き放す圧倒的な走りを連中に見せつけた。
ミアによればシンジケートのスカウトを唸らせるだけの走りではあったらしい。

後はシンジケートの連中が俺を信用するに足りるだけの警察車両とのバトルだ。
出来れば怪我人は出したくないが...

俺はロックポート市のオーシャンヒルズ警察署の前をモンスターシボレーで流す。
黒塗りのインターセプタータイプのパトロールカーが目敏く俺のシボレーを認めて追跡を開始。
警察無線はこのシボレーに搭載された通信傍受システムで丸聞こえだ。

ではここは一つ派手にやらせて貰おう。

(ここで動画 "Road Warrior"約4分をご覧下さい)

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俺のロックポート市警交通課との対決は予想を遥かに上回る壮絶な闘いだった。
装甲車並みの頑丈さを誇るモンスターシボレーは、ロックポート市警の追跡車両達を弾き、転がし、道路外に突き飛ばした。

”ライノ”の異名を持つ特攻車両のSUV車の体当たりや、高速性と機動性を誇る追跡戦闘専用のコルベットパトロールカー達も俺のモンスターシボレーを止める事は出来ず、上空から追跡するヘリコプターすら振り切った。

最後は大学のキャンパス内の屋内駐車場に逃げ込み、追跡のほとぼりが冷めるのを待った。
ミアによればロックポート市警察の交通課は重傷者を含む多くの負傷者を出し、追跡用車両の大半を失い大打撃を受けたが、奇跡的に死者は出なかったらしい。

俺にとっては後味が悪い最悪のバトルだったが、 トゥエイン署長の思惑通りに事は運びシンジケートのスカウトは完全に俺を信用した。

程なく俺は盗難車の凄腕の運び屋としてシンジケートに職を得た。
盗みを担当するメンバーや、海外への盗難車の転売ルート、解体してパーツとして販売する解体工場兼ショップなど、シンジケートの全容の情報を得た。

いよいよ捜査は最終段階。
ミアを含むロックポート市の凶悪都市犯罪課が、シンジケートの拠点を一気に叩く日がやって来た。

この俺もストリートレーサー、アレックスの仮面を脱ぎ捨てシンジケートの拠点の一つ、盗難車の製造番号の打ち変えや解体をするパーツショップ兼工場のガサ入れに参加する事になった。
他の捜査官達はツーマンセルだが俺は単独。

建物の規模が大きいので捜査官一人あたりの担当エリアが広いのが不安材料だが、ヒップホルスターに収めたKimber SWAT CustomII防弾ベストを相棒に、俺は工場のシャッターの一つから地下駐車場へと足を踏み入れた。

建物内には数名シンジケートとは無関係の民間人と潜入捜査官のミアがいるので注意が必要だ。

(ここで動画 "Car Tuneup Shop"約6分をご覧下さい)

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凶悪都市犯罪課が実施したシンジケートの撲滅作戦は成功した。
俺の情報で得た十数箇所のシンジケートの関連施設に一気に突入して、組織の主要メンバーのほとんどを逮捕した。

俺も微力ながら協力させて貰い、シンジケートの盗難車解体工場を制圧して容疑者らを逮捕。
民間人と潜入捜査官のミアも無事確保した。

当初、建物の屋上から別の捜査官らが同じ建物に突入して俺と合流するはずだったが、何の手違いか彼らは組織の別の施設に突入してしまっていた。

その為今回も俺は只一人で盗難車解体工場の容疑者達と闘う羽目になったが、幸い連中は戦闘慣れしていなかったので事なきを得た。

俺はミア捜査官に別れを告げ、無線でトゥエイン署長に報告をした後にそのままロックポート市とおさらばする事にした。
モンスターシボレーはミア捜査官に預け、平凡なセダンのレンタカーでのんびりと帰途に。

俺は面倒な潜入捜査から開放された満足感と、多くの警察官をカーチェイスで負傷させた罪悪感を感じつつ車を我が家へ向け走らせる。
その時の俺は、大きなそして深く暗い闇のような『陰謀』というジグソーパズルのピースの一つとして利用された事に気づいていなかった。

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ロックポート市の中心部にある市庁舎、セントラルタワーの地下施設にトゥエイン署長が足を踏み入れた。

「ミュラー博士。君に用意して貰ったモンスターシボレーは予想以上の性能だった。あの男もほぼ予定通りに動いたしな。お陰で敵対するシンジケートを一掃する事が出来た」
とトゥエイン署長。

「あの車は元々メカイーグルワン用の予備車でしたがお役に立って何よりです。あの男の始末は付きましたか?」

ミュラー博士は端末作業の手を休め振り返る。

「いや。一人でシンジケートのアジトの一つに突入するように仕組んでシンジケートの奴らに殺させる予定だったが、何と一人で全部片付けてしまいおった。あの男の戦闘力は私の予想を遥かに上回る。イーグルワンといい勝負かもしれんな」
トゥエイン署長は苦笑いしながらミュラー博士に答えた。

「それでは暗殺チームを送りますか?」
ミュラー博士が右の眉毛の端を吊り上げて問う。

「その必要はあるまい。不正規活動とはいえ、まっとうな捜査だと信じているからな。又、何かの折に役に立つかもしれん...それでは、モンスターシボレーを回収してメカイーグルワン仕様に戻しておいてくれたまえ。それから市警の壊れた警察車両は廃棄してくれ。我々の組織のディーラーから市に買い取らせる。これもちょっとしたビジネスになるな」
そう言うとトゥエイン署長は踵を反して研究室を後にする。

「判りました。Mr.ホワイト」
ミュラー博士がMr.ホワイトの後姿に声を掛ける。

陰謀は暗くそして深い。

 Movie   Under cover cop Inerk "Street Race"

 Movie   Under cover cop Inerk "Road Warrior"

 Movie   Under cover cop Inerk "Car Tuneup Shop"

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  潜入捜査用に用意されたモンスターシボレー


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  イナークの潜入捜査用プライベートジャケット


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  イナークの Kimber SWAT CustomII


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  イナークの Kimber SWAT CustomII その2


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  イナークの Kimber SWAT CustomII その3


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  イナークの Kimber SWAT CustomII その4


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  捜査で使ったヒップホルスター(左上)


 Photo 盗難車解体所のガサ入れで着用した防弾ベスト

 Photo 盗難車解体所のガサ入れで着用した防弾ベスト

 Photo   メカイーグルワン モビル1号